「大きな声が勝つ世の中で」 三月第四主日礼拝 宣教 2020年3月22日
ルカによる福音書 23章13〜25節 牧師 河野信一郎
おはようございます。教会へお帰りなさい。今朝、このように皆さんと礼拝をおささげできる恵みを神様に感謝いたします。ご一緒に礼拝できるとは、なんという恵みでしょうか。M姉のイスラエルでの体験もお聞きすることができて感謝です。しかし、今朝ここに集えない子どもたち、兄弟姉妹たちを覚えて、その方々の上にも恵みが豊かにあるように祈りたいと思います。今のわたしたちには、主イエスの名によって神様に祈ることが互いのために必要です。
さて、前のスクリーンをご覧ください。これは、今、世界中でコロナウイルス感染が拡大していることを示す地図で、世界保健機関(WHO)が出したものと日本の新聞社がまとめたものです。現在、世界１６３カ国・地域で感染が確認され、感染者数は２５万人を超えたということです。そういう状況の中で、ドイツのM姉とフランスのM姉が日本へ帰国できたことは神様のお導きとそれぞれの賢明な判断によるものであり、幸いなことであったと思います。しかしながら、わたしたちは中国のSR姉、アメリカのCH兄、CB兄、B先生ご夫妻のご家族、ノルウェーのA兄、マレーシアのE姉、ネパールのO家の事を心配しています。しかし、もしわたしたちに心配する時間と気力があるのであれば、その時間と気力を神様に祈ることに用いましょう。皆さんのご家族のことを覚えて祈りたいと思います。
何度も繰り返し申しますように、今、世界中がコロナウイルスによって混乱の中、危機的状況にあります。イタリアをはじめとするヨーロッパ諸国やイランが大変です。今までに経験したことのない非常事態によって世界中が混乱しています。何をどうすれば良いのか分からない、不安と恐れが続く状態です。
アメリカでは多くの州で非常事態宣言が出されています。わたしたちを覚えて祈ってくださっているコロラド州のMバプテスト教会の皆さんもそうです。私の母や兄妹たちが住むカルフォルニア・ロスアンゼルスでも州知事の命令によって外出禁止措置が19日から取られ、祈りと礼拝をささげることが生きがいの母、そして家族たちは教会に行って礼拝をささげることができなくなりました。2年前から牧師のいない小さい教会ですから、礼拝の模様をライブ発信することもできません。わたしは月に二度インターネットのスカイプで宣教していますが、この教会の代表から昨夜遅くに相談のメールがあり、それぞれが自宅で礼拝を捧げるためにプログラムを作りたいけれども、この事態の中で読むべき聖書箇所と賛美歌があったら教えて欲しいというものでした。
わたしはすぐに神様に祈り、兄弟姉妹たちに必要な聖書の御言葉を教えてくださいと祈りました。今は非常事態の中ですが、しかし受難節・レントの真っ最中でもあるわけです。主イエス様の十字架への道から信仰の目を逸らしてはいけないという思いから、4つある福音書のどれかを選び、そこ記されている主イエス様の受難の箇所を読んではどうかと伝えようとしましたが、どうもしっくりきませんでしたので、もう一度祈りました。様々なことを思い巡らし、そして祈る中で、「戦い」という言葉と「嵐」という言葉が心に迫ってきました。数日前に、アメリカの牧師仲間の一人がこの感染は戦争の下にあるようなものと同じと言った言葉を思い出し、そこから導かれたのがイエス様が嵐を静められた箇所でした。そこで聖書を探しましたら、旧約聖書から１箇所、新約聖書から１箇所が導かれました。
一つは、出エジプト記14章13節から14節です(p116)。エジプトを脱出したイスラエルの民を引き戻そうと迫ってくるエジプト軍を見て恐れた人々に対してモーセが言った言葉です。「恐れてはならない。落ち着いて、今日、あなたたちのために行われる主の救いを見なさい。あなたたちは今日、エジプト人を見ているが、もう二度と、永久に彼らを見ることはない。主があなたたちのために戦われる。あなたたちは静かにしていなさい。」
もう一つは、マルコによる福音書4章36節から41節です(p68)。イエス様が突風を静められた時の言葉です。「弟子たちは群衆を後に残し、イエスを舟に乗せたまま漕ぎ出した。ほかの舟も一緒であった。激しい突風が起こり、舟は波をかぶって、水浸しになるほどであった。しかし、イエスはともの方で枕をして眠っておられた。弟子たちはイエスを起こして、『先生、わたしたちがおぼれてもかまわないのですか』と言った。イエスは起き上がって、風を叱り、湖に、『黙れ、静まれ』と言われた。すると、風はやみ、すっかり凪になった。イエスは言われた。『なぜ怖がるのか。まだ信じないのか。』弟子たちは非常に恐れて、『いったい、この方はどなたなのだろう。風や湖さえも従うではないか』と互いに言った。」
この二つの箇所に共通すること何でしょうか。少なくとも二つあります。一つは、神様と主イエス様が大いなる力をもって民の救いのために働かれるということ。もう一つは、「静まる」ということです。民に対して「静かにしていなさい」と言われ、湖に対して「静まれ」と言われます。わたしたちに今必要なことは、主なる神様とイエス様に信頼して、静まるということ、つまり辛抱強く神が勝利されることを待つということです。主イエス・キリストによって希望を持って、勝利を待つということです。何故ならば、主イエス様はヨハネによる福音書16章33節でこうおっしゃいました。「これらのことを話したのは、あなたがたがわたしによって平和を得るためである。あなた方には世で苦難がある。しかし、勇気を出しなさい。わたしは既に世に勝っている。」と。真の平和・平安は主イエス様によって与えられます。静まって、希望を持って待つときが今であり、そうすることで勇気が与えられることを覚えたいと思います。
さて、長い前置きが宣教のようになってしまいましたが、今朝わたしたちに与えられている御言葉、聞くべき御言葉は、ルカによる福音書23章13節から25節です。苦しい状況にあっても、イエス様の十字架への道をたどることが今のわたしたちには大切です。
22章47節からを読んでゆきますと、弟子のユダの裏切り、他の弟子たちが逃げ去ること、祭司長、神殿守衛長、ユダヤ社会の長老たちによってイエス様が捕えられたこと、そのイエス様を知らないとペトロが３度言うこと、見張りの者たちから暴行を受けるイエス様が記されています。そして次に主イエス様はユダヤ教の最高法院で裁判を受けます。そこには「民の長老会、祭司長たちや、律法学者たちが集まった」と記されています。彼らはユダヤ教、イスラエル社会の中で最も大きな力を持つ者たちで、強くて大きな声、影響力を持つ人々です。
次に23章1節から読んでゆきますと、ローマの中で大きな力を持つピラトとユダヤ全土を支配するヘロデからイエス様が尋問されることが記されています。彼らも強くて大きな声、社会的に影響力を持つ人たちです。しかし、そこに民衆が集められ、加わります。彼ら一人一人には力はありませんでしたが、小さな声を一つにすることで大きな影響力を与える声になりました。
13節から24節まで読みます。「ピラトは、祭司長たちと議員たちと民衆とを呼び集めて、言った。『あなたたちは、この男を民衆を惑わす者としてわたしのところに連れて来た。わたしはあなたがたの前で取り調べたが、訴えているような犯罪はこの男には何も見つからなかった。ヘロデとしても同じであった。それで、我々のもとに送り返してきたのだが、この男は死刑に当たるようなことは何もしていない。だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。』しかし、人々は一斉に、『その男を殺せ。バラバを釈放しろ』と叫んだ。このバラバは、都に起こった暴動と殺人のかどで投獄されていたのである。ピラトはイエスを釈放しようと思って、改めて呼びかけた。しかし人々は、『十字架につけろ、十字架につけろ』と叫び続けた。ピラトは３度目に言った。『いったい、どんな悪事を働いたと言うのか。この男には死刑に当たる犯罪は何も見つからなかった。だから、鞭で懲らしめて釈放しよう。』ところが、人々は、イエスを十字架につけるようにあくまでも大声で要求し続けた。その声はますます強くなった。そこで、ピラトは彼らの要求を入れる決定を下した。」
ユダヤ教とユダヤ社会の中で大きな権力、影響力を持つ祭司長たちの声に惑わされ、操られた民衆がいます。つい四日前に「ホサナ、ホサナ、主の名によって来られる方に祝福があるように。我らの父ダビデの来たるべき国に、祝福があるように」と喜びの歓喜をあげてイエス様を迎えた民衆が「十字架につけろ、十字架につけろ」と叫びます。大きな権力を持つ人たちに扇動されたからです。ピラトは罪ある者たちに惑わされた民衆の大声に負けて、罪なき人、イエス・キリストを罪人に引き渡して、彼らの思いのままに、好きなようにさせました。大きな声が真実を曲げ、勝利したのです。
わたしたちは、大きな声が勝つ世の中に置かれ、不正がはびこる世の中で生かされています。耳に入ってくる声や言葉は時に甘くて、魅力です。目に見えるものもそうです。世の中にはわたしたちの心を惑わす力ある知恵の言葉、自己啓発を促す言葉が溢れています。影響力のある声も周りにたくさんあります。それらの言葉や声を聞いて、わたしたちは影響され、迷い、不安や恐れを抱き、混乱します。
しかし、民衆の大きな声、その人たちを惑わし、扇動する力ある声を聞いていたイエス様はどうしていたでしょうか。沈黙して、何も言葉を発しません。それはイエス様が弱かったからでは決してありません。主イエス様は静まっていたのです。父なる神様に信頼し、神様の御心を第一にし、神様の勝利を信じ、ひたすら神の時が来ることを待っていたのです。
主イエス様は、ひたすら父なる神様を愛し、わたしたち罪人を愛し、わたしたちを救うために十字架への道を歩まれました。イエス様がわたしたちの身代わりとなって十字架につけられ、死んでくださることによってわたしたちの罪は洗い清められました。そして神様の愛と復活の力によって、永遠の命への道を開いてくださいました。わたしに従ってこの道を歩みなさいと今朝、わたしたちは招かれています。イエス様の十字架と復活とによって、今を生かされているわたしたちには救いと信仰と平安と希望が与えられています。これは全て主からの恵み、祝福です。大きな声が勝つ世の中で苦しむわたしたちに与えられている慰めであり、励ましです。この愛を感謝して受け取りましょう。